あごうさとし×穴迫信一 特別対談

ブルーエゴナクの特徴・魅力

穴迫:ブルーエゴナクの作品はいくつか見てもらってると思うんですが、何か共通するものを感じますか?それは九州演劇の要素だったりするかもしれないし、京都では見ない部分だったり、そういう特徴だったり魅力の部分についてあごうさんから見て何かあればお聞きしたいのですが。
あごう:はい、私は多分穴迫さんの作品は三本拝見しています、一つ目はKAIKA(*1)での企画gate(*2)で拝見した鎖骨(*3)の2人コント、あれは面白かった、本当に大笑いしました。それから二本目はアトリエ劇研創造サポートカンパニーの一年目「AGAIN/やりなおし」(*4)、その次がショーケース(*5)での「リビング」(*6)。スタイルとしては三つとも全部違いますよね。
穴迫:そうですね。
あごう:「AGAIN/やりなおし」はラップという表現がふんだんに使われている群像劇ですよね。「リビング」はタイトルの通りリビングで起こるコメディタッチの会話劇だったと思います。鎖骨はコントだし。違う色味があってそのそれぞれに面白さがあると思います。
共通性はどこかというとひとつは〈コメディのセンス〉、もうひとつは〈若者の何か〉、葛藤だったり不満だったり批判めいたものだったり、そういうのがそれぞれのスタイルの中にあるということは共通しているのかなと。そして、会話や青春群像の中に、キャッチーな手法としてラップを多用しながら、色んなスタイルを模索しているということなのかなあと。
穴迫:作風が毎回違うということは自分の中ではネガティブな意識としてあります。それは世界観や手法みたいなものがまた確立していないということになるので。そういう意味ではラップという手法を手がかりに、かつてない発話方法を開発するところまでいければいいなと思っています。普通のラップってなるともうすでに色々あるので…。
あごう:(ラップは)かなり市民権を得てきてるよね。
穴迫:そうですね、なので「ラッパー」(*7)の時は逆に開き直って、カルチャーの部分も含めてHIPHOP×演劇をやってやったという感じだったんですけど、これからは更新されていく会話の速度だったりリズム感だったり、そういう世代的な感覚に繋いでいきたいと思っています。
あごう:僕も全く同じ主題っていうかテーマの中でそれこそ色んなスタイルで作品を作って、ある発語の手法を紡ぎ出そうとしてるんだけど、そういう意味では穴迫くんと僕は同じテーマを追ってるなあというところはありますね、それでちょっと思ったのは、ラップって言葉が出て来たのは僕らの世代が学生の頃くらいだったと思うんだけど…。
穴迫:そうですね、ラップが日本でも聞かれるようになったのは80年代後半くらいからかと。
あごう:だから穴迫くんは産まれたときからラップという音楽があった、そしてクラス中の奴がラップしてた(*8)という現象に至るのに、つまりその表現のジャンルというのがそこまで根付くのに30年かかるんだなあという印象。また、穴迫くんは既存のラップの使い古された感を問題意識として持ってるから、カルチャーの継承の部分とその世代が考える新たな切り口みたいなものが産まれ始めてる。かかった時間を考えると何だかしみじみする(笑)。
まあ演劇は発語と身体を取り扱ってるものだから、根本的にはみんなあんまりテーマは変わらないと思うんだけどね。でもラップっぽいってのはちょっとつまんない感じするじゃん、それは何か作戦があるんですか?
穴迫:そうですね、だからもっと音楽に寄せていくというか、言葉自体が持っているリズムのようなものをしっかり刻んでいくイメージで。
あごう:それが戯曲の言葉としても了解されながら、ある一定のリズムの中でドラマを起こしていくみたいな?
穴迫:そうですね、今あごうさんの話を聞きながら思い出したのは、僕小学生の時から毎日ずっとノートにラップを書いてたんですよ、よくラッパーが歌詞の中で〈リリック書き溜めたノート〉みたいなことを言うんですけど僕もまさにそうで、それ用のノートが何十冊とありました。それって今思うと、自分が台本を書くときのルールの元になってるんですよね。僕の台本は呼吸のポイントにしか句読点を打たないようにしてるんです。ラップの歌詞を書くときは句読点は打たないのですがその代わりに、休符のように小節ごとにスペースを空けたりしていました。つまり、句読点を休符代わりにして台本を書いてるんだなあと。一小節あって休符、一小節あって休符、間に一拍空くとかそういうコントロールをしてる。それは確かに原風景的リズムだなあと。

ブルーエゴナクの京都の活動について

穴迫:2012年からKAIKAやFTP(*9)さんにお世話になって京都に来る機会をいただいて、2015年からはアトリエ劇研の創造サポートカンパニーとしてお世話になっているんですが、全国的にみても我々の世代で、こういう拠点以外での継続した活動されてる方は少ないかなと。そこは一応言っていこうかなとは思ってます(笑)。もちろん課題もたくさんありますが。あごうさんから見て、我々の活動はどう映っておりますでしょうか
あごう:活動の基盤の作り方としては仰る通り中々見ないですよね。いわゆる複数拠点を持っている状況があると言ってもいいかなと思ってます。お客さんも入ってるわけだし。
穴迫:前回は多くの方に見ていただきました。今回は……頑張ります。
あごう:うちだけじゃなくて、そもそもFTPさんから始まってるのもあるから、地元じゃないのに二つも発表の場所を持っていたり、支援してくれる団体がいたり、個人的なサポートもある。本当は大変なんだろうけど複数年に渡って公演を成立させてきたってのはすごいことだよね。演劇は地元でやるだけでも大変で、ペイしたらよく頑張りましたね赤字でもしょうがないねっていうような業界。それを他地域に行ってツアーだけにとどまらず、ツアーだってすごくリスクが高いのに、滞在製作でしかも複数年ってなると、社会のある種のインフラみたいなものをどうやって活用していけばそれが実現できるのかを考えることがひとつあるよね。努力と工夫と仕組みをうまく繋げるのが大事なポイントなんだろうなと。もちろん創造環境の整備みたいなこともうまくできたらいいんだけど。例えば劇研も宿泊できたり、稽古場として利用できたらそれだけで楽だよね。運営側として頑張らなきゃいけない余地も沢山あるけども、急に劇的に状況は変わらないからこそ工夫が必要になってくる。それを実践して自分たちで見つけてやっているっていうのは理屈でいうのは簡単だけど、仲間を動かしてあるいは自分でリスクを負ってやるっていうのは本当に大変だろうし尊敬に値するなと。
穴迫:ありがとうございます。
あごう:で、もちろんリスクだけじゃなくて複数拠点があれば繋がりも増えるし、視野もやった分だけ広がっていくし、当然チャンスも出てくると思う。
穴迫:今そういう話を聞きながらああそうだな…って思いました(笑)。視野の広がりって意味では、京都に来ると北九州のことを客観視できるなあと。複数拠点というと義理がないと取られそうですがむしろ還元できるものが沢山ある。京都と北九州って全然違うから、こっちに何を持って来て北九に何を持って帰るかを考えますね。それと僕らも結構麻痺してるところがあって、今お客さん入らないどうしようって言ってるんですけどそもそも他地域じゃなかなかお客さん入らないですよね。
あごう:地元ですら集めるのも大変だもん。
穴迫:そう、だから京都が他地域って感覚も気付くとなくなってきてて、とは言え拠点っていうのはまだまだおこがましいですけど。だけどちゃんと居場所として機能し始めてるような。
あごう:劇研のサポートできる範囲もあるし、やっぱり支えてくれる仲間が増えて来てるのが大きいよね。本当に誰も知らない土地じゃない。
穴迫:俳優さんとかは、KAIKAで観ましたとか劇研で観ましたとか、あるいは別の俳優さんがブルーエゴナク面白いですよって推薦してくれて、オファーを受けてくれたりとか。
あごう:(「ふくしゅうげき」出演者の )高杉征司(*10)は昔一緒に劇団やってたんだよ、西村さん(*11)は今一緒に作品を作ってる。
穴迫:京都での新たな人との出会いは本当に頼もしいし、ありがたいことです。

地域同士のつながり

穴迫:本当に僕らはKAIKAさんと繋がって、それから頻繁に呼んでいただいことがきっかけでした。旗揚げ2年目からそういうお話をいただいていたので本当に有り難い話です。その流れでFTPさんからレジデンスのお仕事をいただいて、それが大きかった。他の地域の滞在制作のきっかけをそこで与えてもらった、考え方も変わったし、作品も思い入れのあるものになりました。作り手としてお金をいただくのも有り難かった。そこまで作った繋がりを大事にかつ拡張していきたくて、しょうちゃん(*12)と京都の劇場の挨拶めぐりをしました。その中のひとつがアトリエ劇研さんで、ご挨拶に伺ったときに丁度、あごうさんが創造サポートカンパニーの募集の話をしてくれました。運だったり巡り合わせだったりももちろんありますがそれが今に繋がっているのはすごいことだと思います。
あごう:北九州の人たちにはどう思われてるの?こういう活動を。
穴迫:どうなんでしょう…僕らが間隔をあけずにずっと公演をやり続けてることは「大変そうだなあ」と思われてると思います。
あごう:ついていけんわ、みたいな?(笑)。
穴迫:もちろんそういう方もいるとは思います…(笑)。
あごう:北九州の劇団や俳優ってどれくらいいるの?
穴迫:北九州は今盛り上がって来ていると感じますが京都に比べるとやっぱり分母が違うなあと。でも俳優さんは魅力的な方が多いです。
あごう:KAIKAのフォーラムでもそういう話をしてくれたね。
穴迫:だから地元の演劇の方は(エゴナクに対して)スタンスが違うという感じかも。実際京都で毎年公演するのがいかに普通じゃないかはさきほどもお話にあった通りですし。でも今公演を最後に、一旦京都の予定がなくなります。
あごう:ブルーエゴナクの名前は東京の演劇人からも聞いたりするからね、君たちの活動はそれくらい波及してきてると思うよ。
穴迫:そういう意味でもやっぱり今後も京都でのつながりを大事にしたいですね。
あごう:カンパニーさんにはこれからそれぞれ工夫を見つけてほしいですね。劇団や劇場同士の繋がりの仕組みもこれからもっと強くなると思いますから。複数拠点のような新たな可能性はまだあると思う。
穴迫:アトリエ劇研が閉館してそれぞれ次のステップへ、ということですよね。僕らでいうと次の京都公演がどうなるのかとか。
あごう:そうだね、でも劇研みたいにこんな美しい空間はなかなかないと思う。まあただの黒い箱なんだけど、このただの黒い箱ってのがやっぱりない。柱が出てるとか梁があるとか天井低いとか、キャットウォークがあったり黒っぽいグレーだったりして何か空間にノイズがある。劇研はそういうのが何にもなくてかつ高さがある。今後こんな劇場が100年のうちにあるだろうか、そう思うと(閉館は)残念だね。

「ふくしゅうげき」について

穴迫:最後は「ふくしゅうげき」についてです。
あごう:(チラシを見ながら)表はちょっとガーリーなおしゃれな感じなのに、裏は(キャッチコピーが)腹をきめろって…どっち?

穴迫:どっちなんでしょう…。
あごう:(笑)。
穴迫:リクリエーションしながら思うのは、何かの作品を説明するときに〈この作品は復讐劇です〉と言うような作品は沢山あるけど、今作についてはその説明は適切じゃなくなってきてる気がしてて。ある意味タイトルに寄って来てるというか、ひらがな感が出てきてる。ぱっと見ておぞましさをとれないような。
あごう:気になることがあって。この間も東京芸術祭で宮城聰さんが『憎悪の対象』を探してる風潮が見てとれるという話があがっていた。1930年代のドイツでは公共ホールですらその対象になった、それに似たような傾向が今東京でもあるのではないか。記憶が確かであればそういうような論旨を書かれてたと思う。
穴迫:なるほど
あごう:その憎悪の対象というのは公共ホールに向けられている可能性もあるし、そういう大きいホールだけじゃなくて劇研だとしてももっと小さいコミュニティの世界だとしても、ある種の相似形があるんじゃないかという気がしてしまう。だからこういうタイトルをつけてくるのにも(若い世代が感じていることが)何かあるんじゃないかという気がしてくる。
穴迫:この作品もそういう面があって、これは個人同士の話なんですけど、ある人が何か大きなことをしでかすときに、その人がどれくらいの割合で悪いかなんて分からないなという。罪がない人に復讐心を抱くことだってある、憎悪の対象という言葉をお借りするならそれがひとつのコミュニティの中でサイクルしてたり、例えばいじめられっ子がいて、もしその子がその集団からリタイアしたら、今度は次の標的がうまれる。
あごう:そういう話は今だけじゃないだろうね、ある種の捧げものというか、公家に捧げられるものとして。
穴迫:そうなんですよ、今だけのことじゃない。ただどんどんあからさまになってきてる、大人げなくなってきてる。
あごう:まさにそうだね。
穴迫:良心の部分が…。
あごう:衰退していってるという。
穴迫:海がテーマのひとつにあるんですけど、個と個の間にはひとつの海があるくらいに大きく阻まれているというイメージから復讐と海が繋がっていきました。中華料理店が舞台なんですけど、そこでの憎悪と関係性において、今話に出て来たようなサイクルが、潮の満ち引きの様子にも感じられる。いつか終わってまた始まる、それの繰り返しなんだろうなと。

*1=アートコミュニティスペースKAIKA:現代演劇を核とした創作場。2010年7月創設。運営者はNPO法人フリンジシアタープロジェクト。劇団衛星代表・蓮行氏が芸術監督を務める。
*2=KAIKAで行われる試演会として2010年より行われている。複数アーティストの小作品を連続上演する。ブルーエゴナクとしては2度、穴迫個人としては4度その舞台に立っている(歴代2位)。
*3=大迫旭洋(不思議少年)と穴迫信一(ブルーエゴナク)によるお笑いコンビ。演劇人のコントと一線を画すためお笑いコンビとして活動している。経歴格差が激しい。
*4=2015年12月にアトリエ劇研にて行われたブルーエゴナク第9回本公演。穴迫自身「本公演の中で一番創作に苦しんだ作品」としていて、その苦しみのせいか、独特の不穏さが漂う世界観を持った作品。
*5=2016年4月に行われたアトリエ劇研創造サポートカンパニー計9団体による短編ショーケース。ブルーエゴナクは「リビング」を出品。
*6=ブルーエゴナクの短編作品。京都で初演を迎え、北九州でも上演された。テレビ番組「テラスハウス」のような、恋愛中の若者のシェアハウスに、突如妖怪が現れるというナンセンスな怪作。
*7=2016年9月に行われたブルーエゴナクアトリエ劇研創造サポートカンパニー公演。ラップという手法のみならずジャパニーズヒップホップの文化まで取り扱った内容が好評を博した。
*8=以前の対談の際、穴迫の実体験として語られ、1990年生まれの彼の世代を現す現象としてあごう氏の記憶に残っていたと思われる。実際に2000年頃、学校中でラップが流行っていたらしい。
*9=NPO法人フリンジシアタープロジェクト:フリンジシアタージャンルにおけるプロの芸術家・舞台制作者の支援、豊かな創造環境の創出のための活動を行っている。ワークショップ事業や公演企画も多数。松原京極商店街での滞在製作企画において、穴迫が構成・演出を担当した。
*10=高杉征司:2001年WANDERING PARTYを旗揚げ。あごう氏も所属していた。2015年にサファリ・Pを旗揚げ。「財産没収/作:テネシー・ウィリアムズ」を上演し、利賀演劇人コンクール2015にて優秀演出家賞第一席を受賞(受賞者は演出:山口茜)。稽古場での呼び名は「高杉さん」。
*11=西村貴治:97年演劇企画集団「THE ガジラ」鐘下辰男主宰塵の徒党に参加。以降舞台を中心に活動。2年程前より京都を中心に芝居活動を再開。あごう氏との活動や、各劇団への客演も多数。稽古場での呼び名は「西やん」。
*12=大原渉平:劇団しようよ代表・作家・演出家・俳優。京都演劇界の中で、穴迫やブルーエゴナクと最も繋がりの深い人物の一人。5月に公演「あゆみ」「TATAMI」を控える。

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