佐々木峻一×野村明里×穴迫信一 特別対談

ブルーエゴナクについて

穴迫:去年の9月、ブルーエゴナクの「ラッパー」(*1)という公演に2人にはご出演いただきました。僕としては未だに思い入れが強い作品です。創作手法も新しいことが出来たと思うし、ちゃんと京都のテクニカルさんとキャストさんと共同作業の中で作れたと思ったし、沢山のお客さんに観てもらえた。そんな「ラッパー」、そして今回の「ふくしゅうげき」、その両方にご出演いただいているお二人とお話しするのがいいかなあと思ってこの対談を企画しました。今日はよろしくお願いします。
2人:お願いします。
穴迫:野村さんはそれまでエゴナクの作品って見たことありました?
野村:ショーケース(*2)で観ました。ゲネだったかな。
穴迫:「リビング」(*3)ですね、それで急にラッパーのオファーがくるわけですけど、どういう気持ちでした?
野村:面白そうだなと思いました、ラップしてみたかったし。
穴迫:佐々木くんは結構うちの作品を観てくれてますよね。
佐々木:今回も「ラッパー」もそうだけど、北九州から一ヶ月滞在して作るっていうこと自体がまず面白いなあって思う。
穴迫:「ふくしゅうげき」はラップが出てくるわけじゃないけど、何か共通するものって感じますか?
野村:よく言われているように、音楽的というか独特の進み方をしていきますよね。アップテンポな感じ。
佐々木:ビート感のある芝居ってよく書かれているけど、(作品の中に)ビート流れてんなあって感じがする、それが面白い。あと「ラッパー」の時に思ったのは、衣装とかもギリギリのラインのセレクトをしてくる、ちょっとダサいというか(笑)、でもギリギリが一番面白いからね。
穴迫:狙いがあるものとそうじゃないものがあるとは思うけど…(笑)。
佐々木:チラシのデザインも変ですごくいいと思う、あんまり京都にはないなって。
「リビング」で言うとテラスハウスっぽい若者3人、ミランダっていう謎の女、水木しげる、妖怪って要素としてめちゃくちゃだけど、それをアリにしてしまうのがエゴナクっぽさ、良さかな。
穴迫:マイナーコードとメジャーコードが混ざってる曲みたいな、ふざけてるのか本気なのかのボーダーをかき消すみたいな、そういうのは狙ってるかもしれませんね。
佐々木:そうそう、だから京都は真面目だなあって。
穴迫:というかエゴナクって明るいでしょ?
2人:(声を揃えて)明るい。
佐々木:すごいエンターテイメント。それがいいね。

野村:明るいけど根暗さも見え隠れしてるって思いますね、その根暗さすらカラッとしてますけど。
佐々木:京都はどちらかというとじめっとしてるもんね、それが良さだけど。やっぱり気候が出るのかな。
穴迫:ラッパーの体験で大きかったものってありますか。
佐々木:台詞も変だなあと思った、あごうさん(*4)が書いてたようにdeep impactとかやっぱりラップの影響が台詞にも出てるよね。
穴迫:deep impactはあんまり聞いたことないんだけどね(笑)
佐々木:そういうラップも聞くしアイドルも聞くしロックも聞くし、純文学も読むし漫画も読むしっていう、色んな物が同列に散らかった部屋みたいな、漫画も難しい本も流れで読めるそういう世代感みたいなものを感じる、いろんなものを同時に楽しめる世代。

前作「ラッパー」から今作「ふくしゅうげき」へ。

佐々木:前回のラッパーの経験として、初めての通し稽古の時が大変だった記憶がある、段取りとかもどんどんずれていって、ああストイックに取り組まないとなあと反省しました。
野村:それは多分、さっきも言ったように穴迫作品自体にビートがずっと流れてる感覚があるから、一拍ずれると全部壊れていくような、それが音楽的なのかもしれないですけど。
佐々木:HIPHOP的というか。
穴迫:そういったビートを「ふくしゅうげき」にも感じますか?
野村:まだ全然一拍どころのずれじゃないですけど、きっとそうなっていくんだろうなあとは思いますね。
佐々木:前回は皆ラップにして自分の思いをぶちまけてたけど、今回は腹の底に抱えてる思いを誰も言わない。
穴迫:そうですね、しかも初演より台詞をカットしてますからね。
野村:どんどんカットしてますね、大丈夫ですか?
穴迫:意味わかるかなあ…。
佐々木:僕の役とかいきなり…ですもんね。さっきまでワーって喋っていかにも主人公ですよーって感じなのに、次のシーンからはほとんど出て来ないとか。
穴迫:ギャグみたいな気持ちなんですけどね、主人公っぽいやつが早々に退場するという。
佐々木:そうかギャグか!
穴迫:もちろん残してた方が物語を展開させるのは楽なんだけど、あえてどんどん退場させていく。
佐々木:役の違いじゃないけど、「ラッパー」は本当に僕にアテてかいてくれた感じがありました。
野村:それはある、「ラッパー」の時はメイコって役がすごいやりやすくてほぼ何も違和感なく。
穴迫:全編通してラップしかしないという。
野村:役の性質としてやりやすかった、だから会ったこともない話したこともないのにそれをアテてくるというのは穴迫さんの見抜く力だなあと。
穴迫:それは俳優の力でもあると思います。野村さんのお芝居を〈居留守〉(*5)で一度見ててその時のイメージでメイコ像は出来上がっていきました。いい俳優さんは見てるだけでその作品以外のいろんな想像力も与えてくれるから。そういう意味では佐々木くんと野村さんの役をやってくれた初演の2人はほぼ毎回出てくれてる人たちだから、もうアテ書きもくるとこまできてて、逆に台詞が少ないっていう(笑)。
佐々木:変な役ですよね、出て来ないし台詞もないけど最終的に持ってってるなあみたいな人たち。
穴迫:そうですね。
佐々木:ラッパーはアテ書きで、今回は再演ものでしかも初演の動画も見てるから、脇内くん(*6)を意識してしまうね。
野村:私も意識しちゃうからあんまり見てないです。

演出家・穴迫信一について

穴迫:2人はいろんな演出家さんとやられてますよね。
野村:私は最近だと〈居留守〉の山崎恭子さん(*7)が一番多いかな。前回の公演の時は、原作のテキストをそれぞれ読み進めて、感想を伝え合ってそれをまとめる。そこからやっと稽古場で動いて皆で作っていく。何の台詞もない状態からやってみるちがうやってみるちがうの繰り返し、任されてる仕事量が多いって感じます。
佐々木:僕はもちろん自分の劇団〈努力クラブ〉(*8)の代表の合田さん(*9)になるけど、僕は合田さんの作品をあんまり理解できていないみたいですね…。合田さんはかなり内面を問います、一番重視するのは例えば舞台上で会話をしている2人がいたとして、その2人の間で成り立っていたらいいっていう。
穴迫:合田さんは松原(*10)を見に来てくれて、それを褒めてもらったのをすごい覚えてます。野村さんはフリーでいるってことは、柔軟でいようみたいなことはあるの?
野村:現場現場でその演出家さんに合わせるっていう気持ちはあります、でも最近所属や仲間がいないことが寂しく感じることもあって。
佐々木:僕は劇団やりたいって気持ちが強い、バンドの感覚というか、この4人がステージに立っただけで画になるし、その人たちにしか出せない音があるっていう。だからそういうチームみたいなものに憧れますね、野村さんは劇団やりたいって気持ちはないの?
野村:それはないですね、誰かとか何かを信じ込むのが私は嫌なのかな…と思いますね。
佐々木:作・演出と俳優が同等に表現し合う、コラボレーションって形が一番いいけどやっぱりどうしても主従関係ができちゃいますよね。
穴迫:どっちがいい悪いじゃないけどね、信じることと疑わないことは違うというか。
佐々木:穴迫くんの演出は音楽的だし音への意識、あと画もすごい意識してるよね、ラッパーの時も「僕は画と音のことしか言いません、感情の流れとかは皆さんで勝手に作ってください」って言ってて、それは特徴的だなあと思いました。
穴迫:劇団だったら感情のことまで細かく詰めて考えていけるのかもしれないけど、やっぱりプロデュース形式になるとそこにあんまり時間を割けないよね、価値観とかもバラバラで集まるから。
野村:あ、そうですね、穴迫さんの稽古場はストレスフリー、すごいフリーだなあと。
穴迫:それはどういうところに思いますか?
野村:俳優と演出家の距離感が適切だと思います、絶対的な主従関係になることもなく、かと言って完全に友達みたいにすることもなく。
佐々木:うん、ストレスフリーだね。
穴迫:あんまり北九州では言ってもらえないことかも…(苦笑)。
野村:北九州でどうされてるのかは知りませんが(笑)。
穴迫:でも稽古場の雰囲気とかは京都も北九州もほとんど変わらないと思う。
チづる(制作):そうですね、稽古場のやり方や雰囲気はそんなに(変わらない)。
穴迫:ただ、京都では無意識に丁寧にやってる部分があったり、北九州では知ったメンバーばかりだから僕が少し甘えてる部分があったりするのかもしれません、でもそういう視点の言葉がもらえて嬉しいです。
佐々木:役者の内面に入っていくような演出家さんもいますよね、入っていってそれを利用して作るっていう、穴迫くんはそうじゃない、けどもしそうなったらそれはそれで面白そうだなあと思う。
野村:穴迫さんが俳優を見抜いているっていうのはそういうところもあって、この人にはこういう言い方をすれば伝わるってこともすごく考えてる感じがします。
佐々木:言い方も人によって違うもんね、まあ経験のある演出家さんは皆さんそうだと思うけど。
野村:そうですね。
佐々木:今回は「ラッパー」の時と違って、初演で画と音が出来てるのもあるから、感情みたいなことも言ってるよね?
穴迫:そう、ラッパーの時と変わったのは、「イメージ」も共有した方がいいと思うようになった、感情というよりは感覚みたいなものかな、初演があるからこそ前とは違うイメージを渡したいと思ってます。

「ふくしゅうげき」ってどんな話?

佐々木:どんな話……?
野村:どんな話……?
佐々木:でもこの前飲み会で話した…。
穴迫:あーこのラーメンとチャーハンは誰が出したんだっていう。
佐々木:っていう話でした(笑)。
穴迫:えー例えばダイエットをしてる人が中華料理屋さんに入って、ラーメンセットが目に入ったけどダイエットしてるからなあと思ってラーメン単品にしたと、でも届いたのがラーメンとチャーハンだったと、でこれは果たして本当にそれを食べてしまった人だけが悪いのかっていう話ですね、ラーメンやチャーハン自体にも罪はあるし、それを持って来た人、作った人、とかにも罪は…。
野村:よく分かんないですよねこの話、「ふくしゅうげき」もそんな感じ。
穴迫:1幕で張られた伏線があって、それを2幕で回収していくんだけど、だからって別にスッキリしない、腑に落ちない感じだよね、それが日常の感覚に近いというか。
佐々木:ブルーエゴナクはそういう面白がり方もあるよね、腑に落ちないなーっていう。具体的な答えが提示されなくて提示されるのは意味だけ。悶々とする割にでもエンターテイメントでもあるっていう、今回で言うと野村さんの役がラーメンとチャーハンを食べちゃったってこと?
野村:そうですね…台詞の中に「たまたまよ」ってあるんですけどそれが難しくて。でもすごい象徴的だなあと思います。よく分からない大きな流れに巻き込まれていく、出だしがなんだったか忘れたけど何か小さなスイッチみたいなのを押したらそれが連鎖していって最終的にはよくわからないっていうか………(沈黙)。
佐々木:………うーん、まだちゃんと喋れないなあ、ふくしゅうげき(笑)
野村:まだ、ですよね。《この頃稽古が始まって約一週間》
穴迫:では、初演の映像をどうゆう風に見ました?
佐々木:すごく完成されてるなと、京都でまたこれを作るっていうプレッシャーはありましたね。でも今はいやもっとあれ以上のものが作れるって気持ちになってる。
穴迫:今回台詞をいっぱい変えてるけど本当はそのままでいこうと思ってたんです。でも2ヶ月の間に演劇観が大幅に更新されてるってことを台本を見返して気付きました。台詞一つ一つにこのままにしておけない気持ち悪さがいっぱいあって。だから作品もやっぱりまた更新されるべきものなんだなあと。
佐々木:今は余白が多いですよね、お客さんに想像を任せる部分というか。初演の映像でもうひとつ思ったのはサイズ感、北九州芸術劇場小劇場はすごく広い感じがしたけど、アトリエ劇研でどうなるのか、ブルーエゴナクは広い場所も合ってると思う。
穴迫:僕ら今後の京都の予定は何も決まってないので、場所も探さなきゃいけないんです。
野村:ローム(*11)広いですよ。
佐々木:ロームでやってる若い人はあんまりいないね、大原くん(*12)ぐらい。
穴迫:やらせてくれないかな…(笑)。
佐々木:その為にも今回しっかりやらないとですね。

九州の俳優について

穴迫:最後に九州の俳優さんの話も。前回は鈴木晴海さん(*13)、今回は田崎小春さん(*14)が福岡からエゴナクメンバーと一緒に京都で滞在製作をしてくれています。
野村:でもなんか似た匂いがする、お姉ちゃんみたい。
穴迫:平嶋さん(*15)とも共演するのは初めてですよね。
佐々木:平嶋さんはいいなあ!大好きですね。「AGAIN/やりなおし」(*16)も「リビング」も今回も、役どころとして一人なのが多いよね。稽古してて平嶋さんが出て来たら「お、未知の生物が出て来たな」って思います。
穴迫:平嶋さんが大好きって結構珍しい気も(笑)。
佐々木:そうかな、確かに変ではあるよね彼女。
穴迫:酸味強いというか…。
野村:分かります、味でいうと平嶋さんは酸味強い!ピンクグレープフルーツみたいな。
穴迫:あーあとから苦みが来るような。田崎小春さんはどうですか?
佐々木:小春ちゃんはやっぱり分かってる感じするよね、話も役も、あと目つきがいい。
野村:なんか旨味成分が多いイメージかな。
穴迫:彼女は人好きだからそれが芝居にも出てますね、いい風に作用してると思います。
佐々木:小春ちゃんが言ってたけど初演の時よりも登場人物全員嫌なやつ感が増してるって。それって京都っぽいってことなのかも。
穴迫:場所の違いというよりは関係性の違いかも、ほぼ初対面から始まるわけだから、北九州より当然腹の探り合いが増える稽古場だしね。意識的に初演より嫌な話にしたいなと思ってます(笑)。

*1=2016年9月に行われたブルーエゴナクアトリエ劇研創造サポートカンパニー公演。ラップという手法のみならずジャパニーズヒップホップの文化まで取り扱った内容が好評を博した。
*2=2016年4月に行われたアトリエ劇研創造サポートカンパニー計9団体による短編ショーケース。ブルーエゴナクは「リビング」を出品。
*3=ブルーエゴナクの短編作品。京都で初演を迎え、北九州でも上演された。テレビ番組「テラスハウス」のような、恋愛中の若者のシェアハウスに、突如妖怪が現れるというナンセンスな怪作。
*4=あごうさとし:劇作家・演出家・俳優・アトリエ劇研ディレクター。
「ふくしゅうげき」の際、チラシにご寄稿をいただく。
*5=居留守:2011年に京都造形芸術大学舞台芸術学科の自主公演をきっかけに山崎恭子が立ち上げた団体。現在、山崎恭子(演出)、降矢菜採(俳優)のメンバーで活動。
*6=脇内圭介:飛ぶ劇場所属の俳優。穴迫演出作品の最多客演俳優。自身のユニット「ワンチャンあるで!」では作・演出も担当。今年5月、劇団しようよ「TATAMI」に客演。
*7=山崎恭子:演出家。京都造形美術大学舞台芸術学科卒業。地点『Fatzer』、篠田千明『zoo』などの演出助手を務める。
*8=努力クラブ:2011年3月に合田団地と佐々木峻一を中心に結成された団体。アトリエ劇研創造サポートカンパニー。4月末に公演「フォーエバーヤング」を控える。
*9=合田団地:努力クラブ代表・作家・演出家・俳優。穴迫作品についてご寄稿をいただく。
*10=フリンジシアタープロジェクト主催による、松原京極商店街での滞在製作企画において、穴迫が構成・演出を務めた作品。正式タイトルは「松原京極オプマジカリアルテクノ」。
*11=ロームシアター京都:2016年1月にオープンした京都市の劇場。〈劇場文化をつくる〉をコンセプトに様々な企画や公演を実施。広さの異なる3つのホールを運営。
*12=大原渉平:劇団しようよ代表・作家・演出家・俳優。京都演劇界の中で、穴迫やブルーエゴナクと最も繋がりの深い人物の一人。5月に公演「あゆみ」「TATAMI」を控える。
*13=鈴木晴海:九州で活動する俳優。〈じあまり。〉所属。「リビング」「ラッパー」などブルーエゴナクの京都公演にも多数客演。
*14=田崎小春:九州を拠点とする俳優。「ふくしゅうげき」には北九州での初演から唯一客演として関わる。今公演の後、活動拠点を東京へ移す。
*15=平嶋恵璃香:ブルーエゴナク所属の俳優。チラシやHPなどのデザインも担当。佐々木峻一氏が以前からファンを公言している。
*16=2015年12月にアトリエ劇研にて行われたブルーエゴナク第9回本公演。穴迫自身「本公演の中で一番創作に苦しんだ作品」としていて、その苦しみのせいか、独特の不穏さが漂う世界観を持った作品

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